これはもう、観ていただくしかない。「LOST(ロスト)」という海外ドラマの凄さは。それは、どんな話なの?と問われて答えれば、「無人島でサバイバルする人たちの話」で終わってしまうからだ。確かに、全編通して無人島(おそらくハワイ諸島でのロケであろう。)での48人の男女の場面が基本のこのドラマ、話の内容がわからない状態で途中から観れば、何でこんなにいつも同じのせまい場所で同じ俳優の話が展開しているのだろう、と疑問に思うかもしれない。だからこそ、このドラマはシーズン1の最初から、1話も見逃してはならない。場面設定がシンプルな分、そのストーリーと登場人物の「過去」に纏わる心理描写がスリリングなドラマだからだ。
LOSTは英語で「失う・無くす・迷子」などの意味がある。そう、文字どおり、このドラマは「無」から始まる。
無人島に飛行機が墜落し、救助も来ない中、生存者である登場人物達は現実世界との謝絶から、社会的地位などの生きていた「証(あかし)」をLOSTする。同じ米国からの海外ドラマで、「24(トゥエンティフォー)」という爆発的ヒットを飛ばしているシリーズがあるが、こちらはある意味ロストとは正反対、次々と変わる場面展開に、膨大な量の情報であるセリフ、1シーズンに絡んでくる登場人物もとても多い。そういう意味でも、24を「動」とすればロストは「静」のドラマ。そこに私は、とても日本的なものを感じる。
私の本業である水墨画には「余白(よはく)」を美とする概念がある。ただでさえ墨と筆で白黒をメインに描かれるシンプルな絵画だが、主にしたい画材、例えば竹なり椿なりの周りに敢えて何も描かない「余白」を作る。それは主役を取り囲む空気であり、背景であり、見る人の心理を透写するスペースである。何もないところから生まれてくる言わば想像力に、訴えかける絵画技法なのだ。
こういった日本的な概念は日本の伝統文化のあらゆるところに息づいている。静寂を美とする日本文化。小説でも、あまり説明しすぎず比喩や暗喩で情景を描写するものが多い。最近は、そういう日本的な作りをされている映画がハリウッドでも認知されつつあると思う。映像やCGはもう凄いのが当たり前の時代に、深い心理描写や観る者に何か余韻を残すような作品の構成は逆に新鮮で心に響くものがある。さらにホラー小説で鈴木光司原作のハリウッドでもリメイクされた「リング」シリーズは、惨殺死体の精巧な映像表現のかわりに、なかなか出てこない怨霊にせまるまでの「間」が恐怖心を煽る点が欧米人にもウけたわけだ。
とはいえ、LOSTの主体でありストーリーの核になる登場人物の過去に迫るシーンや、シーズン1の1話の冒頭の墜落した飛行機のシーンなどの作りこみは素晴らしい。主体が素晴らしいから「余白」が活きる訳である。私の水墨画作品の余白は果たして活きているのかはさておき、LOSTの余白にみる謎やスリルや心理描写を、堪能していただきたい。
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